小豆島食品 久留島克彦さん小豆島食品 久留島克彦さん

瀬戸内海の塩作りが紡いだ佃煮の歴史。瀬戸内海の塩作りが紡いだ佃煮の歴史。

小豆島の朝は、佃煮を炊く芳しい香りで始まります。香りに導かれて路地を行くと、趣のある焼杉塀が。ここが佃煮製造元「小豆島食品」です。
佃煮作りは、この島の製塩業と深い関わりがあります。中世以前より、小豆島では塩作りが行われてきました。けれども塩だけでは生計が成り立たないため、やがて塩を原料とした醤油造りがおこなわれるようになりました。さらに戦後、この醤油を使って始められたのが、佃煮製造。
「小豆島食品」は、昭和30年の創業。昭和20年代まで使われていた醤油蔵で、さまざまな佃煮を少量ずつ炊き続けています。建物のなかはすっきりと掃除が行き届き、やわらかな光が差しています。

とびきりの素材を使うから無添加で美味しい。とびきりの素材を使うから無添加で美味しい。

無添加で、とびきりおいしい佃煮を作りたい。それが「小豆島食品」代表、久留島克彦さんの願いです。だから、材料は納得いくまで厳選。
「素材がええから、添加物なしでうまくなるんですよ。たとえば佃煮にする昆布は、一流の料亭で出されるような最高級の羅臼昆布。それも水揚げする浜まで、きちんと指定します」
昆布に合わせる砂糖は「サトウキビのええとこだけ」選った喜界島の粗糖。醤油は地元が誇るヤマロク醤油の、杉樽で醸した無添加もの。これを、枕崎の鰹だしとともに煮詰めます。
焚き加減は、混ぜるときに櫂を伝わってくる感覚が頼り。ふっくらとした肉厚の昆布が飴色に輝き、こっくりとした甘い香りが漂って……小豆島の朝の香りが、こうして生まれてきます。

昔ながらの平釜を直火にかけてひと釜ずつ丁寧に。昔ながらの平釜を直火にかけてひと釜ずつ丁寧に。

土間には、よく磨きこまれた鉄の平釜が並んでいます。ひと釜でできる佃煮は、たった25キロ。
「小さな平釜でひとつずつ、つきっきりで直炊きして……こんな手のかかること、大手はまずしないでしょうね」と、久留島さんは笑います。
久留島さんが家業に携わったのは二十代のときでした。高度成長期、作れば作るほど売れ、平釜だけでなく大釜も回しての大量生産。けれども時代が変わり、久留島さんは立ち止まります。
他者と同じ味なら、コストを抑えた分業制の大手メーカーに軍配があがります。うちのような、家族経営の佃煮屋にできることは何だろう。ふと目をやれば、慣れ親しんだ平釜が。2釜あれば2種の佃煮ができ、5釜あれば5種できる……これだ、と久留島さんは膝を打ちました。
いま、「小豆島食品」が手がける佃煮は50種余。食べる人の好みに合わせて味の濃さや素材を変えられるのは、小さな平釜だからこそ。先達が残した平釜が、今の佃煮作りを支えています。

いっぺん食べたら忘れられないふくよかな風味。いっぺん食べたら忘れられないふくよかな風味。

美味しい炊き方は、長年櫂を握ってきた手が覚えています。昆布は角が取れないよう、ゆっくり混ぜて。椎茸は汁が少なく焦げやすいので、頻繁に櫂を入れる。鶏そぼろは混ぜながら櫂の背で細かくつぶして、舌ざわりよく。ホタテは櫂を入れずにふっくりと形良く炊く……。
「美味しい佃煮って、いっぺん食べたら忘れられんものですよ。『あの味が忘れられん、買うてきてくれんか』と言われて買いに来た、とお客様に言われるとき、佃煮屋を営んできてよかった、と思います」と久留島さん。
おすすめは、ほかほかのごはんにひと箸分載せて。あるいはおむすびに入れて、お弁当に。香ばしいほうじ茶や玄米茶を差して吸い物やお茶漬けにするのもまた、格別です。
こぼればなし その1
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こぼればなし その2
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